相続税は各人の取得価額に応じた税率をかけ、控除額を差し引いた金額である。とはいえ具体的な計算方法だけでなく、税率が何%であるかご存知ない方も多いのではないだろうか。相続税は高額な納税額となるケースも多いため、あらかじめ納税額は把握しておいた方が望ましい。
そこで今回、相続税の税率と相続税の計算方法と注意点を紹介する。これから相続を控えている方は、本記事を参考にして相続税の計算をあらかじめ行っておくと良いだろう。
相続税の税率とは
税率は基準となる価額に対してかかる割合を示した比率である。相続においては各人が相続した財産の取得価額に応じた金額にかけて相続税を計算するため、税率については理解しておく必要があるだろう。ここでは相続税の税率について解説する。
日本一高い税率
相続税の最高税率は「55%」と贈与税率と並んで日本で最も高い。一般的に認知度が高い消費税は「10%」、所得税は「最高45%」となっており、双方と比較しても高いことがわかるだろう。
また財務省が発表している「相続税の負担水準に関する資料」を確認しても、フランスやドイツ、アメリカなどを抑え、イギリスに続き世界二位の相続税負担率となっている。これまで相続税負担率が高い理由としては次の項で紹介する「平成25年を境に税率が向上した」が要因の一つとなっている。
平成25年を境に税率が向上した
相続税の税率は平成25年度を境に引き上げられた。現在の相続税の最高税率は55%であったが、平成25年以前は50%であった。その背景として、相続税の税制改正は富裕層への課税強化や消費税の引き上げタイミングに合わせたなどが要因とも言われている。
また近年では医療費や介護などの社会保障費などのひっ迫が問題視されており、今後も税制改正があるかもしれない。とはいえ昭和62年までは「75%」平成14年までは「70%」であったため、税率だけに着目すると低くなっていることがわかる。当時の日本はバブル経済によって土地の価格が高騰していたが、バブル崩壊後は相続税が支払えない方も多くなり、税率が引き下げられた。そのため相続税の税率は経済と連動しており定期的に改正が入る。
納税者は増加傾向にある
財務省の「相続税・贈与税に係る基本的計数に関する資料」を確認すると令和元年度では1,381,093人亡くなったのに対し、課税件数が115,267件の8.3%であった。1件あたりの法定相続人数は2.74人であるため、1年間で315,823人も納税していることがわかる。平成25年の納税者は234,000人であったため、年々納税者は増加傾向にある。
理由としては「平成25年の基礎控除額の低下」と不動産などの資産価値の上昇が主な要因とされている。そのため相続税の計算をする際は税率だけに着目するのではなく、基礎控除額のポイントとなる法定相続人の数や課税遺産評価額にも注意しなければいけない。基礎控除額について詳しく知りたい方は「相続税の基礎控除額の仕組みとは?基礎控除額を計算する際の4つの注意点を解説」を確認してほしい。
相続税率早見表
以下の表は相続税率早見表である。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
相続税の最高税率は55%であるものの、上記の表を見てわかる通り、6億円以上の場合のみとなるため、該当するケースは少ない。相続税の計算方法は次の項で紹介するが、配偶者と子どもの2人が相続人の場合、被相続人の遺産が12億4,200万円でなければ最高税率が適用されない。そのため「相続税の最高税率は55%」というフレーズだけが独り歩きしないように注意してほしい。
相続税の計算方法とは
計算方法は大きく分けて以下の3つの手順で行う。
課税遺産総額を算出する
はじめに被相続人の遺産額をすべて合算した金額を算出する。遺産の対象となるのは「預貯金」や「不動産」、「株式」などである。その他自動車や貴金属、絵画なども該当する。現金や預貯金はそのまま金額が評価額となり遺産総額に計上される一方、不動産などは細かな計算が求められる。
不動産の評価額を算出するうえで一つの金額の目安となるのは「固定資産税評価額」だ。固定資産税評価額は固定資産税を算出する際に用いられ、固定資産税納税通知書に記載されている。もちろん固定資産税評価額が相続税評価額とは異なるため、正確な金額とはいえないものの、ある程度近い数値となるケースも多い。
より正しい金額を算出したい方は鑑定士や税理士などに依頼して算出してもらうことが望ましい。遺産総額が算出出来た後は、基礎控除額である「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を差し引いた金額が課税遺産総額となる。基礎控除額について詳しく知りたい方は「相続税の基礎控除額の仕組みとは?基礎控除額を計算する際の4つの注意点を解説」を確認してほしい。
各人に按分する
課税遺産総額の算出ができた後は、法定相続分に分けて按分する。例えば法定相続人が配偶者と子ども1人の場合、50%ずつとなる。また子どもが複数いる場合や両親が法定相続人となる場合もあるため、各人の按分方法は以下の表を参考にしてほしい。
法定相続人 | 配偶者 | 子ども | 親 | 兄弟姉妹 |
配偶者のみ | 100% | - | - | - |
子どものみ | - | 100%(子どもが2人の場合は50%ずつ) | - | - |
親のみ | - | - | 50%ずつ(片親は100%) | - |
兄弟姉妹のみ | - | - | - | 100%(兄弟2人なら50%ずつ) |
配偶者と子供 | 50% | 50%(2人なら25%ずつ) | - | - |
配偶者と親 | 66%(2/3) | - | 16.5 %ずつ(1/6) (片親は33%) | - |
配偶者と兄弟姉妹 | 75%(3/4) | - | - | 25%を兄弟たちで按分(2人なら12.5 %ずつ) |
相続税の税率をかけて控除額を差し引く
各人の法定相続分の取得遺産額が確定した後は、先ほど紹介した税率をかける。その後控除額を差し引いた金額が相続税となる。なお、配偶者には「配偶者控除」という特例がある。配偶者控除は、配偶者が取得する遺産が「課税価格の合計額×法定相続分」または「1億6千万まで」は課税されない特例だ。そのため一般的に配偶者は納税しなくてもよいケースとことが多い。その他にも相続税にはさまざまな特例処置があるため「相続税額はどのように計算する?自分でできる相続税シミュレーションを紹介」を確認してほしい。
相続税のシミュレーション
ここでは相続税のシミュレーションを2つ紹介する。条件として遺産の合計額は1億円と仮定する。紹介する事例は以下の法定相続人であるケースだ
- 配偶者と子ども2人
- 配偶者と被相続人の親
配偶者と子ども2人の場合
配偶者と子ども2人の場合、法定相続人は3人となる。つまり以下の計算式で課税遺産総額を算出できる。
- 課税遺産総額=1億円-基礎控除額(3,000万円+600万円×3人)=5,200万円
つぎに各人の法定相続分の取得遺産額を算出する
- 配偶者の取得遺産額=5,200万円×1/2(50%)=2,600万円
- 子ども一人あたりの取得遺産額=5,200万円×1/4(25%)=1,300万円
遺産額が分かった後は、税率と控除額を差し引く。
- 配偶者は配偶者控除によって0円
- 子ども一人あたりの相続税=1,300万円×15%-50万円=145万円
配偶者と被相続人の親
配偶者と親(母親のみ)の場合、法定相続人は2人となる。計算手順は以下の通りだ。
- 課税遺産総額=1億円-(3,000万円+600万円×2人)=5,800万円
先ほどと同様に、取得遺産差額を求めると以下の通りとなる。
- 配偶者の取得遺産額=5,800万円×2/3(66%)=3,866万円
- 親の取得遺産額=5,800万円×1/3%(33%)=1,933万円
最後に税率を控除を差し引く流れだ。
- 配偶者は配偶者控除によって0円
- 親の相続税=1,933万円×15%-50万円=240万円
相続税の税率を掛ける際の注意点
税率をかけて相続税の計算をする際は、以下の3点に注意が必要である。
遺産総額にかけるわけではない
相続税の税率は遺産総額に対してかかるわけでないと注意してほしい。これまで相続税の計算方法を紹介してきてお分かりになる通り、各人の取得金額に対して税率がかかる。
被相続人の遺産総額に税率を掛けてしまうと、高額な相続税になってしまうだろう。もちろん間違えて多く支払った相続税は還付される。しかし手続きが面倒なうえ、振り込まれるまで半年近くかかってしまう。そのため正しい相続税の計算をすることが重要である。より詳しく相続税の計算を知りたい方は「相続税の計算方法をわかりやすく解説!計算する際の3つの注意点とは」を確認してほしい。
2割加算されるケースもある
相続税は支払う法定相続人によっては2割加算される。加算の対象者は以下の相続人である。
- 兄弟姉妹
- 祖父母
- 甥・姪
- 被相続人の子どもの配偶者
- 代襲相続していない
- 第三者(知人・友人など)
2割加算の対象者は相続税を2割足して納税する。例えば相続税額が200万円である場合、240万円納税しなければいけない。そのため取得遺産額に税率をかけて控除額を差し引いただけでは納税額が不足となる。不足した金額を納税すると修正申告しなおし、再度不足分を納税する必要がある。さらに延滞税や過少申告加算税などのペナルティが課せられるため注意してほしい。
税率を掛けた後に特例の控除額を差し引く
相続税の計算は税率を掛けた値に控除を差し引くが、その他にも控除できる特例がある。そのため税率前に特例の控除を差し引かないように注意してほしい。間違えて控除すると納税額の計算にも違いが生じ、正しい相続税を申告できないことにつながるだろう。そのため納税額の計算方法を正しく理解しておくことが大切であると言えるだろう。特例の控除や計算方法は「相続税額はどのように計算する?自分でできる相続税シミュレーションを紹介」を参考にしてほしい。
まとめ
今回は相続税の税率と計算方法を紹介した。相続税の税率は日本一高い税率であり、世界と比べても相続税の負担水準が高い。さらに近年では納税者が増加傾向にあるため、自身が相続税納税者になるかはあらかじめ計算しておいた方が良いだろう。
相続税の税率は各人の取得金額によって異なる。決して遺産総額に課税されるわけではないため注意してほしい。また計算方法で不安のある方やより厳密な納税額を知りたい方は税理士などの専門家に相談することをおすすめする。