相続は家族であっても100%遺産を継承できるわけではない。本来法定相続人が財産を相続する権利を有することが多いものの、人によっては相続する資格を失う場合もある。ではどのような理由で資格がなくなるのだろうか。
本記事では3つの相続する資格のない人について紹介する。また手続き方法についても解説するため、相続の資格を廃除したい被相続人や相続人はぜひ参考にしてほしい。
相続に関する資格とは
相続に関する資格とはどのような内容なのだろうか。ここでは相続に関する資格について解説する。
遺産を相続できる法定相続人であること
相続に関する資格を保有している人は法定相続人であることを意味し、被相続人と血族関係のある方が該当する。一般的なケースでは配偶者は必ず該当し、その次に優先順位に基づいた人が法定相続人に含まれる。優先順位は以下の通りとなる。
- 第1順位:子ども・代襲相続人(直系卑属)
- 第2順位:親・祖父母(直系尊属)
- 第3順位:兄弟姉妹・代襲相続人(傍系血族)
日本の多くの家庭が、旦那と妻、子どもがいる家庭が多いことから、旦那が亡くなった際は妻と子どもが相続人となることが多い。しかし子どもがいない場合は、第2順位、第3順位の人が法定相続人に含まれるということだ。優先順位については「相続人になる人は決められている?相続人の優先順位とは」にて詳しく解説している。
相続税の納税義務が発生すること
法定相続人となった方は、財産を相続するだけでなく、相続税を納税しなければいけない。日本では相続が発生した際、財産を取得した人にはその取得財産に応じた金額の納税義務が発生する。
相続税を納税しなければ、相続する資格を失う訳ではないものの、罰則を支払うことにもなりかねない。そのため財産を相続する資格だけでなく納税義務者であることでもあると認識しておいてほしい。
相続する資格がない人
では相続する資格のない人はどのような方なのだろうか。ここでは相続する資格を喪失する3つの要因について解説する。
相続放棄した人
相続に関する資格を放棄した人は相続する資格を喪失する。これを相続放棄という。相続では現金や不動産などの財産の他に、負債や借入金の財産も継承することになる。人によっては負債を引き継いで返済したくないという方も多いことから、する方もいる。さらに相続税を支払う必要もなくなるメリットもあるため、自身の資産に影響が出ることを懸念する方が使用する制度である。
ただし相続放棄は相続が発生してから申立てでき、3か月以内と定められているため、タイミングを間違えないように注意してほしい。より詳しく知りたい方は「債務を相続しなくて済む相続放棄とは?概要と手順を紹介」を確認してほしい。
相続欠格者
法定相続人が相続または被相続人に対して不正な行為や悪質な行為を行った場合は、相続欠格者となり相続する資格を失うことになる。具体的には以下の理由に当てはまった場合である。
- 被相続人を死亡させたもの(ただし過失致死や傷害致死は含まれない)
- 被相続人が殺害されたのを知っていたものの告発しなかった人(是非の弁別とは善悪の判断が付かない者を指す。配偶者や直系血族は上記の限りではに条文に記載されてある。つまり、父親が殺害された事実を息子は知っていたが、加害者が息子の妻だった場合は相続人になれるということである。)
- 遺言書を破棄・撤回・変造・捏造・隠蔽を強要した者、また行った相続人
つまり被相続人に対して殺害などに関連した場合や遺言書を偽装するなどを行った場合は相続欠格者となり、相続する資格を失うことになる。
相続廃除者
相続廃除者とは被相続人の意思によって相続権利を失った人を指す。相続欠格は相続発生後に該当するケースが多い一方、相続廃除は被相続人が生前中に裁判所へ申立てすることで相続に関する資格を喪失させることは可能となる。とはいえ、下記のような正当な理由に該当した場合のみだ。
- 相続人となる予定の人が生前中に虐待・侮辱してきたとき
- 相続人が迷惑をかけていた場合
ここではの迷惑とは例えば長男が多額の借金を抱えており、父に金銭面で迷惑をかけていた場合や、親の介護を行った場合、その他精神的な苦痛を与えた時などが挙げられる。つまり、被相続人に対して嫌がらせなどを行った場合や、多大な迷惑をかけた場合などは権利を奪うことが可能だ。
各種手続き方法
3つの相続する資格を失った方について解説してきたが、それぞれどのような手続きを行うのだろうか。ここでは手続き方法について解説する。
相続放棄の手続き方法
相続放棄の手続きは以下の手順で行う
- 必要書類の準備
はじめに必要書類の準備をする必要書類は申述人によって異なるため、以下の表を参考にしてほしい。
全員 | 相続放棄の申述書 被相続人の住民票除票か戸籍附票申述人(相続放棄をしたい人のこと)の戸籍謄本 自身の戸籍謄本 |
配偶者が申述人の場合 | 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本 |
子どもや孫が申述人の場合 | 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本 被代襲者(配偶者または子)の死亡の記載のある戸籍謄本(孫のみ) |
親または祖父母が申述人の場合場合 | 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本 配偶者または子の出生から死亡までのすべての戸籍謄本 被相続人の親の死亡の記載のある戸籍謄本(祖父母のみ) |
兄弟姉妹や甥・姪が申述人の場合 | 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本 配偶者または子の出生から死亡までのすべての戸籍謄本 兄弟姉妹の死亡の記載のある戸籍謄本(甥・姪のみ) |
- 相続放棄申述書に必要事項を記入する
裁判所のホームページにある「相続の放棄の申述」にてダウンロードし、必要事項を記入する。書類は未成年と成年で異なるため注意が必要だ。
- 家庭裁判所へ提出する
申述書と必要書類を家庭裁判所へ提出する。提出する裁判所は被相続人の最後の住所地を管轄しているところだ。また郵送でも可能である。
- 相続放棄の照会書確認し返送する
申述書の提出から2週間前後で照会書が申述人に届く。内容を確認し質疑に解答して家庭裁判所へ返送する。
- 相続放棄申述受理通知書が交付される
照会書を返送したのち、10日から2週間前後で相続放棄申述受理通知書が交付される。以上で相続放棄の手続きは完了となる。
相続欠格者の手続き方法
相続欠格者に関しては特別手続きは必要ない。相続欠格者が「相続欠格事由に該当することの証明書」を作成すれば問題ない。ただしに人よっては作成を拒むこともいるだろう。その場合、相続人の代表者が裁判所へ訴訟を提起しなければいけない。証明書がなければ相続登記できない可能性も高いため注意してほしい。
相続廃除の手続き方法
相続廃除の手続きは以下の手順で行う
- 相続廃除の事由に該当する証明書の準備
相続廃除を申し出る証拠を準備する。証拠となるものは主に以下の項目に該当するものである。
相続人から暴力を受けた時の写真や動画 病院の診断書相手とのやり取り分(メールやLINEなど) 財産を勝手に使い込まれた時の資料(預金通帳のコピーや不動産の登記事項証明書など) |
- 必要書類と申立書の準備
相続廃除の申立書は自身で作成する。正式な書式はないため、インターネットなどで検索して作成してほしい。申立書の他に「申立人の戸籍謄本」と「廃除したい相続人の戸籍謄本」「収入印紙800円分」を用意する。
- 書類の提出と審理を受ける
申立人の住所地を管轄する家庭裁判所へ書類を提出した後、裁判所で審理が行われる。審理が終わり要件を満たしていると審判が下された後は、審判書が自宅に届く。
- 推定相続人廃除届を提出する
審判所をもって役所にて推定相続人廃除届を提出すれば完了だ。ただし審判を受けてから10日以内に届出を提出しなければいけないため注意してほしい。
まとめ
今回、相続する資格を失う3つの該当者と手続き方法について解説した。相続放棄は相続人の意思、相続欠格は相続人の意思または裁判所の判決、相続廃除は被相続人の意志で申述することが可能である。それぞれ申立てする人が異なるだけでなく、タイミングなどにも違いが生じるため注意が必要だ。
また家庭裁判所への書類もあるため正しい記載をするためにも弁護士などの専門家に相談しながら作成した方が良いだろう。