相続税額の平均納税額は約1,700万円ほどにもなり、手持ちの資金では納税が難しいことから、相続した遺産を売却し現金化しているケースも多い。しかしあらかじめ納税額を知っていたら対処方法も変わってくるのではないだろうか。相続税の計算は専門的な知識が求められるものの、概算の相続税は誰でも計算できる。
そこで今回、相続税額のシミュレーション計算方法を紹介する。事前に納税額を計算できれば、相続税が課せられた際も対処できる方法が見つかるだろう。これから相続を控えている人はぜひ参考にしてほしい。
相続税の計算手順とは
はじめに相続税の計算手順を紹介する。相続税の計算は遺産総額を算出し、控除額などを差し引いた後、法定相続人に按分し税率をかける。間違えた手順で計算すると、納税額にも大きな違いが生じるため、ここでは計算方法を理解してほしい。
遺産総額を算出する
はじめに被相続人の合計額の遺産を算出する必要がある。現金や預貯金はそのままの金額となる一方、不動産や株などはそれぞれ評価方法が異なる。ここでは相続遺産の代表格である不動産と株式の評価計算方法を紹介する。
- 不動産の評価方法
土地の評価方法 | 土地の評価額=敷地面積×相続税路線価(路線価方式) 土地の評価額=固定資産税評価額×倍率(倍率方式) |
建物の評価方法 | 建物の評価額=固定資産税評価額 |
土地の評価額の計算方法は「路線価方式」と「倍率方式」の2つに分かれる。路線価方式とは国税庁が発表している1㎡あたりの土地の評価額のことを指し、「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」で確認できる。算出方法については「相続税路線価とは何?路線価の使用用途と計算方法を紹介」で詳しく解説しているため確認してほしい。
一般的に相続税を算出する際は路線価方式で算出されるが、路線価が設定されていない田舎などの土地の場合、固定資産税評価額に倍率をかけた「倍率方式」で算出する。固定資産税評価額とは固定資産税を算出する際の基準となる数値であり、毎年納税している固定資産税納税通知書に記載されている。倍率は路線価同様国税庁の「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」に掲載されているため確認してほしい。
また土地の評価方法は上記の計算式に、さらに「奥行補正」や「側方路線影響加算率」など土地の大きさや形によって補正が入る。補正率については「相続税路線価とは何?路線価の使用用途と計算方法を紹介」で解説しているが、細かな計算を行う際は税理士へ相談した方が良いだろう。
- 株式の評価方法
株式の評価方法は相続発生時の価格をもとに計算され、以下の4つのうち最も低い金額が適用される。
相続開始日の終値(土日などの株式市場が休みの日は相続開始日に最も近い日の終値) 相続開始日の当月の終値平均 相続開始日の前月の終値平均 相続開始日の前々月の終値平均 |
上記の中で最も価格の低い金額に、保有している株数をかけることで株式の価格を求めることができる。さら急激に株価が上昇した場合でも相続発生時の価格がベースとなるため、高い評価額にならないメリットがある。ただし、相続が発生する3日前までに購入していない株式は権利落ちとされ、前日以前の相続発生日に近い終値で評価される。
基礎控除額を差し引く
被相続人の遺産総額の算出が確定した後は、以下の計算式で算出できる基礎控除額を差し引く。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数 |
法定相続人とは被相続人の遺産を相続する人のことを指し、配偶者や子どもなどが該当するケースが多い。さらに人数が多いほど金額が大きくなるうえ、基礎控除額以内の財産であれば相続税は課税されないことにもなる。基礎控除額について詳しく知りたい方は「相続税の基礎控除額の仕組みとは?基礎控除額を計算する際の4つの注意点を解説」を確認してほしい。
葬式費用や債務を差し引く
基礎控除額を差し引いた遺産総額から葬式費用や債務を差し引くことが可能となる。基礎控除額同様、債務を差し引くことで遺産総額が0円となる場合は、相続税は課税されない。
葬式費用と債務が該当するものは以下の表の通りである。
葬式費用の対象 | 債務控除の対象 |
仮葬式・本葬式費用 葬式前後に生じた出費で必要と認められるもの(お通夜・弔問客への食事代など) 死体の捜索・運搬費など | 借入金 被相続人に係る未払医療費 国や地方公共団体に納める税金や負担金(公租公課)など |
法定相続人に按分する
遺産総額から基礎控除額や葬式費用を差し引いた金額が相続税の課税対象額となる。課税対象額の算出ができた後は、下記の表の通り法定相続人で按分する。
相続人 | 配偶者 | 子 | 親(直系尊属) | 兄弟姉妹 |
配偶者のみ | 100% | - | - | - |
子供のみ | - | 子供1人の場合は100%(2人なら1/2ずつ) | - | - |
親のみ | - | - | 100%(両親がいる場合は1/2ずつ) | - |
兄弟姉妹のみ | - | - | - | 兄弟の人数に合わせて按分(2人なら1/2ずつ) |
配偶者と子供 | 1/2 | 1/2を子供達で按分(2人なら1/4ずつ) | - | - |
配偶者と親 | 2/3 | - | 1/3(両親が入る場合は1/6) | - |
配偶者と兄弟姉妹 | 3/4 | - | - | 1/4を兄弟たちで按分(2人なら1/8ずつ) |
按分方法は法定相続割合で計算することが一般的である。法定相続割合について詳しく知りたい方は「法定相続割合で相続できる財産額と納税額の一例を紹介!法定相続割合が適用されない4つのケースも解説!」を確認してほしい。
ただし、遺言書や分割協議によって相続する財産の割合が法定相続割合と異なる場合は、各人の取得額に応じた割合で計算するため注意が必要だ。
税率を掛けて控除額を差し引く
各人に按分した後は税率を掛けて控除額を差し引く。税率と控除額は以下の表の通りである。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
例えば按分した課税対象額が2,000万円の場合、「2,000万円×15%-50万円=250万円」となる。以上の手順で相続税額の計算を行うことが可能だ。ただし上記の税率を見てわかる通り、各人が取得する遺産額によって大きく異なるため「相続税の税率はどれくらい?相続税を計算する方法と注意点を解説」で確認しておいてほしい。
相続税シミュレーション
ここでは相続税額のシミュレーションを行う。条件は以下の通りである。
現金 | 5,000万円 |
土地(敷地面積500㎡・路線価10万円)の評価額 | 5,000万円 |
建物の評価額 | 3,000万円 |
葬式費用 | 200万円 |
債務 | 3,000万円 |
相続人 | 配偶者と子ども2人 |
課税対象額を算出
はじめに被相続人の遺産合計額を算出する。上記の表では現金と土地、建物がプラスの財産となり、合計額は1億3,000万円であることが分かる。その価格から法定相続人3人で計算する基礎控除額(4,800万円)を差し引くと8,200万円となる。さらに葬式費用と債務を差し引くと課税対象額は5,000万円だ。
課税対象額を按分する
課税対象額を算出した後は法定相続割合に按分する。上記の例では配偶者が1/2、子ども1人あたり1/4となる。
- 配偶者の課税対象額・・・5,000万円×1/2=2,500万円
- 子ども1人あたりの課税対象額・・・5,000万円×1/4=1,250万円
納税額を算出する
按分した課税対象額に税率をかけ、さらに控除額を差し引いた金額が相続税となる。
- 配偶者の相続税・・・2,500万円×15%-50万円=325万円(配偶者控除額により0円になる)
- 子ども1人あたりの相続税・・・1,250万円×15%-50万円=137.5万円
配偶者には配偶者控除が適用されるため、相続税は0円になるケースが多い。では配偶者控除とはどのような内容なのだろうか。次の項では相続税に使用できる控除について紹介する。
相続税に使用できる控除とは
相続税にはさまざまな控除制度がある。控除制度を理解しないまま申告すると過剰に相続税を支払うことにもなりかねないため、ここでは6つの控除制度を紹介する。
配偶者控除
配偶者控除とは配偶者の相続税を控除できる制度であり、以下の2つの高い方が適用される。
- 課税対象額の合計額×法定相続分までは非課税となる
- 配偶者の課税対象額が1億6,000万円までは非課税となる
つまり配偶者は一般的に相続税を納税しなくて済むケースが多い。納税するケースとしては、1億6,000万円以上の財産を取得し、なおかつ法定相続分以上であった場合のみとなる。そのため相続人同士で話し合いを行い、控除対象額以内に収まるように配偶者へ財産を渡すことで、全員の納税額を抑えることが可能だ。さらに配偶者が相続権利を放棄する相続放棄を行った場合でも、その配偶者が遺贈により財産を取得した場合は配偶者控除が適用される。
贈与税額控除
相続や遺贈によって財産を取得した相続人は、被相続人から生前に贈与された財産のうち、相続開始から3年以内のものがある場合に、贈与財産にかかる贈与税がある場合は相続税額から控除できる制度である。すでに無償で渡した財産の贈与税を支払っているのにもかかわらず、相続税も支払うとなると、二重で税金を支払うことになるためである。そのため相続税から贈与税額分を差し引くことができる控除だ。
未成年者控除
相続または遺贈によって財産を取得した法定相続人が18歳未満である場合は未成年者控除の対象だ。未成年者控除額は相続発生時の未成年者の年齢から18歳までを差し引いた金額に10万円をかけた値となる。また年数計算をする上で1年未満は端数切捨てとなる。例えば未成年者が12歳8か月の場合、「(18歳-12歳)×10万円=60万円」を相続税額から控除することが可能だ。
未成年者控除は配偶者控除との相性が良い。配偶者の取得遺産額を大きくし、未成年者の控除内での財産取得すれば納税額を0円にすることも可能だ。詳しくは税理士などに相談してみることをおすすめする。
障害者控除
相続人が一般障害者の場合は1年あたり10万円、特別障害者は20万円の金額を、現在の年齢から85歳までの差額分を差し引くことができるのが障害者控除だ。
例えば一般障害者の相続人が50歳の場合、「(85歳-50歳)×10万円=350万円」を相続税額から差し引くことが可能だ。また障害者控除も未成年者控除同様、1年未満の期間は切り捨てて計算する。
相次相続控除
最初の相続(一次相続)と次の相続(二次相続)との間が10年以内であり、同一の財産について相続税課税される場合は、後の相続における相続税額から前の相続における相続税の一部を控除することができる。例えば父が亡くなった後に母が亡くなった際は計算式としては以下の通りだ。
相次相続控除額=母親が一次相続で納めた相続税×(10年-経過年数)×10% |
しかし、母親である配偶者の多くは配偶者控除が適用されるため、相続税額は0円であることから相次相続控除は使用できないため注意してほしい。
外国税額控除
相続した財産の中に相続税が課せられる国外財産がある場合、国際間で二重課税となるため、外国税額控除が適用できる。控除できる金額は以下のいずれかの少ない方が適用される。
- 国外で支払った相続税または相続税に相当する税
- 相続税額×(国外財産額/相続人の相続財産額)
しかし本控除が適用される国はそれほど多くない。相続税に相当する税金が課せられる国は「アメリカ」「フランス」「イギリス」「ドイツ」「韓国」「スペイン」などが挙げられる。とはいえ、例えばアメリカの場合は、4億から5億前後の財産でなければ課せられないため、控除が利用できないケースが多いと認識しておくべきである。
まとめ
今回は相続税額のシミュレーション計算方法を紹介してきた。相続税の計算は正しい手順で行うことでおおよその納税額を算出することが可能である。また相続税にはさまざまな特例があるため、あらかじめ理解しておく必要がある。
とはいえ、自身で計算する場合は概算価格となるケースも多く、相続税の申告をする際は正しい金額を算出しなければいけないため、税理士へ依頼した方がよいだろう。