相続した土地の活用方法は「賃貸・建築・売却」の3つしかない。賃貸は賃貸アパートを建築し、第三者に貸し出すことで得られる賃料や月極駐車場などが挙げられる。一方で相続した土地にマイホームを建築する方もいるだろう。どちらもコストがかかるため、相続した土地を売却する方も多い。
しかし売却した際は売却利益に対して税金が課せられるため、思っていたより手残り金が少ないと感じる人も多いだろう。そのため土地を売却する際はあらかじめ税金を計算した上で売却価格を考慮することが望ましいと言える。
また土地を売却したことがない方にとってはどのような手順で進めればよいかわからないため、本記事では相続した土地を売却した場合の税金の計算方法と、売却手順を紹介する。税金が計算できれば希望手残り金額からの逆算で売却代金も決めることができるため、ぜひ参考にしてほしい。
相続した土地に係わる税金とは
はじめに相続した土地に関連する税金について紹介する。主に3つの税金の課税対象となるため、土地を相続する際は意識してほしい。
相続税
土地を相続した場合、被相続人の財産額に応じて相続税が課せられる。土地単体に対して相続税が課せられるわけでなく、被相続人の財産の合計額である。しかし土地を相続したからと言って必ず相続税が課せられるわけではない。相続税には基礎控除額が定められており、法定相続人によって金額が増減する。また基礎控除額以内の財産額であれば相続税は課せられないため、詳しく知りたい方は「相続税の基礎控除額の仕組みとは?基礎控除額を計算する際の4つの注意点を解説」を確認してほしい。
名義変更に係る登録免許税
被相続人から相続人へ土地の所有権を移行する名義変更登記をする際は、登録免許税が課せられる。登録免許税は相続、売買、贈与などによって名義を変更する際に課せられる税金である。相続による土地の名義変更登記の登録免許税は固定資産税評価額の0.4%となる。
固定資産税評価額は固定資産税を計算する際の指標であり、固定資産税納税通知書に記載されているため確認してほしい。また登録免許税について詳しく知りたい方は「不動産を相続した時に必ず支払う登録免許税とは?計算方法と納付方法を紹介」を参考にしてほしい。
売却した場合は譲渡所得税
相続した土地を売却し、利益が発生した場合は譲渡所得税が課せられる。土地の売却は他人に譲渡したと判断され、譲渡利益に対して所得税と住民税を納税しなければいけない。ただし、売却価格から取得費や売却に係わる費用を差し引いた金額に対して課せられるため、必ず課税対象になるわけでない。ではどのような場合、非課税となるのだろうか。次の項では譲渡所得税の計算方法を踏まえ解説していく。
譲渡所得税の計算方法
譲渡所得税の計算式は以下の通りである。
課税対象額=売却代金-(取得費+売却に係わる費用)-特別控除譲渡所得税=課税対象額×税率 |
上記の計算式について詳しく解説していく。
取得費について
取得費とは被相続人が土地を購入した時の代金のことを指す。すなわち購入時の代金より売却代金の方が低い場合、譲渡所得税は課税されない。取得費は当時土地を買った証明となる売買契約書や領収書にて証明できる。ただし取得費が分からない場合は売却代金の5%と仮定して譲渡所得税を計算する。
また売却する土地に建物がある場合、建物代金も取得費に含むことが可能だ。しかし建物は年々資産価値が劣化していくため、当時の購入代金がそのまま取得費になるわけではない。国が定めた固定資産を使える期間として建物には法定耐用年数が定められており、構造別に償却率も決められている。築年数に合わせた償却費を差し引いた金額が取得費として計上できる。
建物の取得費=購入時の建物代金-(購入時の建物代金×償却費×築年数) |
下記の表は自宅や賃貸物件として利用していた建物の構造別法定耐用年数と償却率である。
木造 | 軽量鉄骨(骨格材肉厚が3mm以下の場合) | 重量鉄骨 | 鉄筋コンクリート | |
法定耐用年数 | 22年 | 19年 | 34年 | 47年 |
償却率 | 0.046 | 0.053 | 0.030 | 0.022 |
償却率は法定耐用年数が長いほど数値が小さくなる。例えば木造賃貸住宅を5,000万円で取得し、売却時には築10年経っている場合の取得費は「5,000万円-(5,000万円×0.046×10年)=2,700万円」となる。この価格の他に土地代金が取得費として含むことができるため、建物付きの土地の取得費は大きくなる傾向にある。
ただし建物を解体して売却する場合は建物は取得費に含まれないため注意してほしい。また土地に関しては法定耐用年数もなければ償却率もないため、建物の取得費のように複雑な計算は不要となる。
売却に係わる費用
土地を売却する際は以下の費用が発生する
- 仲介手数料
仲介手数料とは、土地を含めた不動産を売却する際、買主と売主の仲介役となる不動産会社へ支払う手数料である。仲介手数料は売却代金によって異なり、以下の計算式で算出できる。
仲介手数料=(売却代金×3%+6万円)×消費税 |
なお上記の仲介手数料は国土交通省が定める上限額であるため、不動産会社によっては更に安くなるケースもある。そのため不動産会社を選定する際は仲介手数料が安い会社を見つけるのも一つのポイントだ。
- 印紙代金
不動産を売却する際は売主と買主が契約印紙が添付された売買契約書を締結する。契約印紙は売買代金によって下記の通り定められている。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率(平成26年4月1日から令和6年3月31日までの間に作成されるもの) |
10万円を超え 50万円以下のもの | 400円 | 200円 |
50万円を超え 100万円以下のもの | 1千円 | 500円 |
100万円を超え 500万円以下のもの | 2千円 | 1千円 |
500万円を超え1千万円以下のもの | 1万円 | 5千円 |
1千万円を超え5千万円以下のもの | 2万円 | 1万円 |
5千万円を超え 1億円以下のもの | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え 5億円以下のもの | 10万円 | 6万円 |
5億円を超え 10億円以下のもの | 20万円 | 16万円 |
10億円を超え 50億円以下のもの | 40万円 | 32万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 | 48万円 |
売買契約書は売主と買主が1通ずつ保有するため、2通作成する。そのため契約印紙は売主と買主が1部ずつ用意する必要があるため注意してほしい。
特別控除額を差し引く
特別控除額とは特定の売却をした場合に適用される控除である。控除の一覧と控除額は以下の表を参考にしてほしい。
控除内容 | 控除額 |
マイホーム(居住用財産)を売却した場合 | 3,000万円 |
土地建物を公共事業などのために売却した場合 | 5,000万円 |
特定土地区画整理事業などのために土地を売却した場合 | 2,000万円 |
特定住宅地造成事業などのために土地を売却した場合 | 1,500万円 |
平成21年~平成22年に取得した土地を譲渡した場合 | 1,000万円 |
農地保有の合理化などのために土地を売却した場合 | 800万円 |
低未利用土地等を売却した場合 | 100万円 |
上記の表を見てわかる通り、特別控除は多数ある。しかしどれも適用条件が細かいため、詳しく知りたい方は税理士へ相談することをおすすめする。
税率を掛ける
課税対象額に税率を掛けた値が譲渡所得税となる。税率は保有期間5年を境に以下の表に定められている。
長期譲渡(保有期間5年以上) | 20% |
短期譲渡(保有期間5年未満) | 39% |
不動産を相続した人が5年以内に売却すると39%と高い税率がかけられるため、5年以上保有してから売却することが望ましい。ただし先ほどもお伝えした通り、取得費や売却に係わる費用、特別控除などで売却代金の利益を0円にすれば譲渡所得税は課税されない。そのためどれくらいの税金が課せられるか計算してから売却を検討することが望ましいだろう。
相続した場合土地を売却するまでの流れ
ここからは相続した土地を売却するまでの流れを解説する。既に相続登記が完了していると仮定して紹介する。相続登記について詳しく知りたい方は「相続登記に必要な8つの書類とは?必ず間違えてはいけない3つの注意点も解説」を確認してほしい。
不動産会社に売却査定
はじめに不動産に売却価格の査定を行ってもらう。不動産には相場価格があり、高すぎると売れない傾向にある。そのため譲渡所得税を計算した上で売却価格を定める前に、どれくらいの価格であれば売却できるかを専門家である不動産会社へ査定依頼することが望ましい。
もちろん売却価格は売主が設定できるため、不動産会社が提示した価格を鵜吞みにする必要はない。ただし売却できなければ固定資産税を支払い続けるだけにもなりかねないため、適切な価格を把握しておいた方が良いだろう。
不動産会社と媒介契約
売却価格が確定した後は、不動産会社と媒介契約を締結する。媒介契約とは不動産会社へ売却を依頼するという契約内容であり、特に費用などは発生しない。媒介契約は主に以下の3つに分かれる。
一般媒介契約 | 1社だけでなく複数の不動産会社へ依頼する方法。窓口が広くなるため、早期に客付けしてくれるメリットがある。 |
専任媒介契約 | 1社の不動産会社へ依頼する方法。売主側の不動産会社は他社に依頼されることがないため、売主から仲介手数料を100%取得できるメリットがある一方、売主にはメリットがない。 |
専属専任媒介契約 | 1社の不動産会社へ依頼する上に、買主も同じ不動産会社を見つけてくる方法。依頼された不動産会社は買主と売主の双方から仲介手数料を取得できる。ただし窓口が小さいため買主が見つかるのが遅くなる可能性も高い。 |
3つを比較しても早期に買主を見つけてくれる一般媒介契約がおすすめである。ただし不動産会社によっては専任媒介契約と専属専任媒介契約をする代わりに仲介手数料を安くしてくれるケースもあるため、十分相談した上で検討してほしい。
買付証明書と売渡承諾書
買主が見つかった際は、買付証明書をもらう。買付証明書とは買主が不動産を購入する意思を証明する書類であり、購入者名や購入希望価格の他に希望手付金や特約事項などが記載されている。特約事項には「融資特約付き」と記載されているケースが多い。融資特約とは不動産を金融機関からの融資を受けて購入する場合、万が一融資が非承認となった場合は契約は白紙撤回とするという意味である。金融機関の融資は売買契約書がなければ審査できないため、融資の認可が降りる前に売買契約を締結しなければいけない。そのため買主側を守るためにも買付証明書の融資特約が記載されていることがほとんどである。
買付証明書を取得し、条件に納得出来たら売渡承諾書を買主へ提出する。売主承諾書は買主側へ売却意思を示した書類である。買主と売主が双方書類で意思表示することで円滑な売買契約を進めることが可能となる。
売買契約書の締結
売渡承諾書の提出が完了した後は、買主と売主、不動産会社の予定の合う日で売買契約書を締結する。売買契約時には契約書に署名捺印するほかに、仲介手数料の半金を支払うケースもある。本来仲介手数料は決済時に満額支払うものの、近年では契約時に半金、決済時に残りの金額と定めている不動産会社も多い。
そのため事前に不動産会社へ仲介手数料の支払いタイミングを確認しておくべきである。また売買契約時では買主から売却代金をもらえないため、仲介手数料は自己資金で支払う必要がある点は注意してほしい。
決済
売買契約が完了した後は、決済を行う。金融機関の融資の兼ね合い上、売買契約から1か月前後で行われるケースが多い。決済時は仲介手数料の半金を支払うが、売主から売却代金をもらえるため、その代金から支払っても問題ない。無事決済が終われば土地の売却の完了となる。
まとめ
今回、相続した土地を売却した場合の税金計算方法と売却手順を紹介した。売却時には譲渡所得税が課せられるケースが多いため、売却代金を計算する際は納税額をあらかじめ計算しておく必要がある。
とはいえ、からなず譲渡所得税が課せられるわけでもないため、細かな計算は税理士へ相談した方が良いだろう。税理士へ依頼すれば納税額を含めた売却代金も決めることができる。とはいえ相場価格からかけ離れた金額では売却できないため、不動産会社へ査定依頼しながら正しい手続きで売却するようにしてほしい。