相続税は被相続人(亡くなった人)が所有していた財産に対して課せられる税金である。 財産額が大きいほど納税額は高額となるイメージが強いが、基礎控除額によっては非課税となるケースもある。
基礎控除額は法定相続人の数によって異なり、最も納税額を圧縮できる控除だ。 そのため相続税を計算する上で控除の内容はあらかじめ理解しておく必要があるだろう。
そこで今回、相続税の基礎控除額の仕組みや算出方法について紹介する。 また控除額を増やす方法と4つの注意点も解説するため、相続税の計算をする際に参考にしてほしい。
相続税の基礎控除とは
はじめに相続税の基礎控除額の概要と算出方法について解説する。
課税遺産総額から一定額差し引ける金額のこと
相続税の基礎控除額とは被相続人の遺産総額から一定額差し引ける金額のことを指す。相続税は被相続人の遺産の合計額から基礎控除額を差し引き、法定相続人に按分して税率をかけた値に、控除額を差し引いた金額である。
そのため控除額以内の遺産総額であれば相続税は課せられないことでもある。所得税や贈与税など、日本の多くの税金には基礎控除額が設定されているのと同じ、相続税にも控除額がある。基礎控除額を差し引いて課税対象額が0円となる場合は納税義務が発生しない。これは相続税だけでなくすべての税金に該当することである。そのため相続が発生した際は、被相続人の遺産総額と基礎控除額が、納税者を分ける一つのポイントとなるため、注視しなければいけないだろう。
では基礎控除額はいくらになるのだろうか。次の項で算出方法を紹介する。
基礎控除額の算出方法
相続税の基礎控除額は以下の計算式で算出できる。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数 |
相続税は1人以上の法定相続人がある場合に課せられる。そのため3,600万円未満の遺産総額であれば相続税は課せられない。ただし国税庁の「令和元年直接税」を確認すると、相続税の申告総計は約17兆4500億円。さらに被相続人の数が約14万人であるため、1人あたりの平均遺産額は約1億2千万円にも及ぶ数字だ。そのため納税者は控除額以内の遺産額に収まらない可能性が高い。
とはいえ、課税対象者となる方はいかに基礎控除額を大きくするかが納税額を抑えるポイントとなるだろう。控除額を大きくするためには法定相続人の数が重要となるが、どのような人が該当するのだろうか。該当者を理解していないと基礎控除額はおろか納税額の計算もできないため、次の項では法定相続人の対象者について解説する。
基礎控除額の法定相続人とは
基礎控除額の法定相続人は相続税の納税額を抑えるうえで重要なポイントとなる。ここでは法定相続人の決め方を解説する。
相続権利者のこと
法定相続人とは相続する権利を持つ人(以下:相続権利者)のことを指す。 相続権利者は、被相続人の財産を相続でき、民法で定められた優先順位に則って決められている。しかし 相続税法では「法定相続人の数」を恣意的に増やすことを防ぐため、該当される人は以下の2種類と決められている。
- 配偶者
- 血族相続人
配偶者は相続放棄や相続欠格など、相続に関する権利を失わない場合、優先順位にとらわれず該当する。相続放棄とは相続人自ら相続権利を放棄することであり、相続欠格者は被相続人を死亡などをさせた人である。すなわち相続に関する資格を失った人は除かれる。相続欠格については「相続する資格のない人とは?3つの無資格者と手続き方法を解説」で詳しく解説している。
そのため配偶者は相続権利を放棄・欠格などがされない限り相続人に該当することが多い。例えば夫が亡くなった場合は妻、妻が亡くなった場合は旦那が該当する。一方配偶者以外の血族相続人には優先順位が定められており、以下の表の通りである。
優先順位 | 相続人 |
第一優先順位 | 子どもや代襲相続人である直系卑属 |
第二優先順位 | 父母・祖父母などの直系尊属 |
第三優先順位 | 兄弟姉妹 |
例えば配偶者の他に子どもがいる場合は「配偶者+子ども」が法定相続人となる。子どもがいない場合は「配偶者+父母等の両親」、両親もいない場合は「配偶者+兄弟姉妹」となる。また配偶者がいない場合、優先順位の方の高い方から該当する。
該当者がいない場合は国庫として扱われ、相続税の納税も発生しない。優先順位については「相続人になる人は決められている?相続人の優先順位とは」でより詳しく解説している。
法定相続人の数え方
法定相続人の数は、配偶者と優先順位に基づいた相続人の合計人数となる。例えば配偶者と子どもが2人いる場合、法定相続人の数は3人となる。そのため相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×3人⁼4,800万円」と計算できる。その他の例として被相続人と血族関係のある方が「配偶者・子供・両親」である場合、優先順位の関係に則ると「配偶者と子どもの2名」が法定相続人となる。法定相続人になった人は相続税を納税しなければいけないため、3人で按分した金額に対して税金が掛けられ控除額を差し引いた金額が相続税となる。相続税の計算について詳しく知りたい方は「相続税の計算方法をわかりやすく解説!計算する際の3つの注意点とは」を確認してほしい。
法定相続人として間違えやすいケース
ここでは法定相続人として間違えやすいケースを2つ紹介する。
- 代襲相続人がいる場合
代襲相続人とは被相続人からみて孫にあたるケースが多い。例えば亡くなった父親より先に実子が亡くなっている場合は、孫が代襲相続人となり法定相続人に含まれる。そのため配偶者と子どもと代襲相続人がいる場合、法定相続人は3人になる。また民法886条では「相続ではお腹の中にいる胎児はすでに生まれていたものとみなす」と定められているため、胎児であっても法定相続人に含まれることは理解しておこう。
- 相続人する権利がない相続欠格者または相続廃除者がいる場合
相続欠格者と相続廃除者は法定相続人に含めず基礎控除額を計算しなければいけない。相続する権利を失うため、法定相続人に該当されないためである。
そのため相続税を計算する際は、法定相続人に相続欠格や相続廃除されたものがいないか確認しておく必要がある。間違えて法定相続人に含めて計算すると、正しい相続税が納税できず、ペナルティとして罰則が課せられるため注意しなければいけない。相続欠格と相続廃除については「相続する資格のない人とは?3つの無資格者と手続き方法を解説」詳しく解説している。
基礎控除額を増やす方法
相続税の基礎控除額を増やす方法としては養子縁組が挙げられる。養子縁組した子は第一優先順位になり、実子同様に法定相続人の含まれ基礎控除額を大きくすることが可能である。そのため高齢者で遺産を多く所有している方は、孫などを養子縁組しているケースが多く見受けられる。子供以外に養子縁組が居る場合、法定相続人は2人になる。しかし養子縁組できる数は実子の有無によって以下の通りに限られている。
被相続人に実子がいる場合 | 法定相続人に含めることができる養子縁組は1人まで |
被相続人に実子がいない場合 | 法定相続人に含めることができる養子縁組は2人まで |
つまり基礎控除額を増やすために多く養子縁組をしたとしても、数に制限があることだ。とはいえ一人あたり600万円の控除額増やすことができるのは非常に大きなメリットとはいえるだろう。ただし法定相続人に含められる養子縁組には注意しなければいけない。養子縁組が5人いた場合、5人に財産を相続できるが法定相続人に含められるのは最大2人までということだ。
基礎控除額の注意点
ここでは相続税の基礎控除額の注意点を4つ解説する。該当する場合は相続税額に大きな影響を及ぼすため、必ず確認しておく必要がある。
相続放棄した人がいる
相続放棄した人がいても法定相続人の数に含まれて計算される。相続欠格者や相続廃除された人は法定相続人に含まれないものの、相続放棄した人は本来相続人となる予定だった人として基礎控除額の法定相続人に含むことが可能だ。
相続放棄した人は相続に関する権利を失うため、遺産相続することもなければ、納税義務も発生しない。そのため相続放棄した人の分の相続税は他の相続人で支払う必要がある。
例えば法定相続人である子ども3人の合計納税額が3,000万円の場合、一人あたり1,000万円支払うことになるが、一人が相続放棄すると納税額は1,500万円となる。そのため相続放棄した人がいるからといって多く遺産を相続できることだけに注視するのではなく、納税額が大きくなるという点は注意しておくべきだろう。
相続税の2割加算には注意が必要
遺言書などによって法定相続人とは異なる方に遺産を相続した場合、その方の相続税は2割加算される。例えば本来100万円の相続税であったものの、2割加算により120万円を納税する必要があるということだ。具体的には以下の方が該当する。
- 兄弟姉妹
- 祖父母
- 養子縁組した孫
- 第三者など血族関係がない人
2割加算しない金額を申告して納税すると、修正申告して再度納税しなければいけない。場合によっては「延滞税」や「過少申告加算税」などの罰則を支払うことにもつながりかねなうため、上記に該当する方は2割加算した金額を納税するよう注意が必要である。延滞税などのペナルティについては「期限がある7つの相続手続きとは?相続税の申告期限が過ぎた際のペナルティを解説」を参考にしてほしい。
隠し子も法定相続人に含まれる
被相続人に隠し子がいた場合も法定相続人に含まれる。一般的には被相続人の法定相続人は家族の方がわかっているものの、相続が発生した後は相続人の確定を行わなければいけない。相続人の確定では被相続人の生前時の戸籍から遡って法定相続人を調べ、隠し子などがいないか調査する。万が一隠し子がいる場合は、第一優先順位の法定相続人となり、基礎控除額の計算はおろか、遺産分割や納税も行わなければいけない。
遺言書で法定相続人以外が相続
遺言書で第三者が相続する場合、法定相続人に含まれないため基礎控除額の計算には注意が必要である。例えば、被相続人の生前中に介護などを行ってくれた血族関係のない人に遺産を相続させたい場合、その旨を遺言書に明記することで第三者(以下受贈者)へ遺産を相続させることが可能となる。
ただし全額分の遺産を相続できるわけではなく、相続人には「遺留分」が主張できるため、ある程度の遺産額と定められている。遺留分に関しては「相続人は遺留分でいくらもらえる?遺留分割合と請求方法について解説」にて解説している。
遺言によって遺産を相続した第三者は血族関係がないことから基礎控除額が増えることはない。また受贈者は他の納税者同様相続税の納税義務があり、なおかつ2割加算される。
まとめ
今回、相続税の基礎控除額の仕組みや算出方法、4つの注意点を紹介した。 基礎控除額は高額な相続税を圧縮する重要な制度である。 そのため相続が発生する前に法定相続人の数を数えておくと、相続税の課税対象であるか判断できるようになるだろう。
ただし法定相続人はさまざまなケースによって該当者が増減する可能性も高い。 そのため本記事で紹介した4つの注意点を考慮しながら基礎控除額の算出を行ってほしい。 より相続納税額について詳しく知りたい方や基礎控除額以上の遺産を所有している場合は、納税額の算出を含め税理士などの専門家へ相談した方が良いだろう。