相続税の申告は税理士に依頼する方が多い反面、報酬料を支払う必要があるため、自身で申告している方もいる。しかし多くの方は相続税の申告が初めてであるため、どのような手続き手順で行うか分からない方も多いのではないだろうか。申告方法が分からないまま作業を始めると、書類が合っているか判断できなくなり、結果税理士へ相談しているなどのケースも見受けられる。
そのため相続税の申告をする際はあらかじめ流れや作成方法を理解していることが望ましい。本記事では相続税の申告を自分で行う場合の流れと申告書の作成手順、注意点を解説する。これから自身で相続申告を行う方は、ぜひ参考にしてほしい。
相続税を申告するまでの流れ
相続が発生した後は10か月以内に申告しなければいけない。ここでは相続税を申告するまでの流れを解説する。
相続人の確定を行う
相続が発生した後は財産を相続する人である法定相続人の確定を行う。被相続人が遺言書を残していた場合、遺言内容に則って遺産分割することが原則である。そのため遺言書に記載された相続人が法定相続人となる。しかし遺言書がない場合は、法定相続人の優先順位に則って相続人の確定を行う。一般的には配偶者と子どもが相続人となるが、配偶者も子どももいない場合は両親などが法定相続人となる。法定相続人の優先順位について詳しく知りたい方は「相続人になる人は決められている?相続人の優先順位とは」を参考にしてほしい。
優先順位で相続人を決めたものの、正確に法定相続人であることを証明するには被相続人の出生から死亡までの戸籍を遡って調査する必要がある。仮に被相続人に隠し子などがいる場合は、戸籍に明記されているうえ、法定相続人に含まれる。そのため、相続人の確定は被相続人の戸籍を全て調べたうえで決まるということである。
財産調査を行う
相続人の確定ができた後は被相続人の財産調査を行い、財産が一目でわかる財産目録を作成する。被相続人の財産を調査する目的は以下の3つである。
- どれくらいの遺産があるのか
- 遺産の種類はなにか
- 借入などの債務は無いか
被相続人の財産は相続税の申告と遺産分割、相続放棄などにも関係してくるため、全て調べる必要がある。また財産と含まれる主な項目と調査方法は以下の表の通りだ。
財産の一例 | 調査方法 |
現金・預貯金 | 金融機関へ確認(預金通帳が更新されていない可能性があるため) |
不動産 | 固定資産税納税通知書・登記事項証明書 |
株や有価証券 | 証券会社や信託銀行の明細書などから確認または問合せ |
生命保険 | 生命保険会社へ確認 |
借入などの債務 | 返済予定表などから債権者へ確認 |
貴金属や自動車、ゴルフ会員権など | 調達価格や時価を鑑定士へ依頼 |
遺産分割協議にて財産分割を行う
財産調査が完了した後は、相続人全員で遺産分割方法を話し合う遺産分割協議を行う。遺産分割協議では、「誰がどの遺産をどれくらい相続するか」について協議する。遺産分割について詳しく知りたい方は「法定相続割合で相続できる財産額と納税額の一例を紹介!法定相続割合が適用されない4つのケースも解説!」を参考にしてほしい。
法定相続割合で遺産分割しても良いが、相続人全員が納得するのであれば好きな割合で相続しても良い。例えば自宅を配偶者、不動産を長男、現金を次男などへ相続させることも可能だ。また不動産は現金と違って分割するのが難しいため、一度現金に換えてから分割する換価分割などをしても良いだろう。不動産の分割方法について知りたい方は「不動産を遺産分割する4つの方法と3つの注意点について解説!」を確認してほしい。
なお遺産分割協議が完了した後は、協議内容をまとめた遺産分割協議書を作成する。遺産分割協議書は不動産の名義変更や金融機関の口座凍結の解消などに必ず必要となる重要な書類である。協議書は相続人が一通ずつ保有する。遺産分割協議書の作成方法は「相続発生後に遺産分割協議を行う理由とは?協議書の作成方法と注意点を解説」にて詳しく解説している。
相続税の計算を行う
遺産分割協議が完了した後は相続税の計算を行う。大きく分けると以下の5つのステップに分かれる
- 遺産総額を算出する
- 遺産総額基礎控除額を差し引く
- 遺産総額から債務や葬式費用などを差し引く
- 相続人が相続する遺産割合に税率と控除額を差し引く
- 控除制度を差し引く
相続税の計算は被相続人の遺産総額から基礎控除額を差し引き、各人の遺産相続割合に対して税率をかけ、控除額を差し引いた金額である。相続税の計算について詳しく知りたい方は「相続税の計算方法をわかりやすく解説!計算する際の3つの注意点とは」をほしい。
相続税の計算は専門的な知識が求められる上、正しい金額を算出しなければ、修正申告しなければいけない可能性も高い。そのため相続税の計算は税理士へ依頼することをおすすめする。
相続税の申告書の作成を行う
相続税の算出が完了した後は申告書の作成を行う。申告書は税務署の窓口で取得できるほかに、国税庁のホームページにある「相続税の申告書等の様式一覧」にてダウンロード可能である。申告書の作成手順は後ほど詳しく紹介する。
必要書類を準備する
相続税の申告書と同様に必要書類を準備しなければいけない。必要書類は相続人によって異なるものの、身分証明書や戸籍謄本、遺産分割協議書や住民票などさまざまな書類が挙げられる。必要書類については「○○」にてより詳しく解説している。
期日までに税務署で申告する
申告書と必要書類の準備が完了した後は、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署へ提出すれば完了となる。また申告後は相続税の納付を行う必要がある。税務署から納付書が届くわけではなく、税務署の窓口や金融機関で納付する。そのほか郵便局やコンビニエンスストアなどでも納付可能だ。
相続税の申告書の作成手順
相続税の申告書は第1表から第15表まであり、どれから記入して良いか分からない方も多い。ここでは作成手順を3つのステップに分けて解説する。
STEP1 第9表から第15票を記載する
はじめに被相続の遺産総額から控除できる財産を記入する。第9表から第15表では非課税財産や債務などの金額を書類と照らし合わせながら記載してほしい。
第9表 | 生命保険金などの明細書 |
第10表 | 退職手当金などの明細書 |
第11表11の2の表の付表1~4 | 小規模宅地等の特例など |
第11表 | 相続税がかかる財産の明細書 |
第13表 | 債務及び葬式費用の明細書 |
第14表 | 相続開始前3年以内の贈与財産など |
第15表 | 相続財産の種類ごとの明細 |
上記の項目を記載しないと課税遺産総額が減らず、多く相続税を支払うことにもつながりかねないため注意してほしい。
STEP2 第1表と第2表を記載する
第1表と第2表では具体的な相続税を記入する。相続税額があっていることを確かめるためにも第2表の「相続税の総額の計算書」から作成することが好ましい。
第1表 | 相続税の申告書 |
第2表 | 相続税の総額の計算書 |
また事前に相続税額を計算している方は、相違がないか調べながら作成することをおすすめする。
STEP3 第4票から第8表を記載する
最後に控除額の計算書を記入する。相続税額から直接差し引ける控除額であるため、間違えて未記入にすると控除が適用されない。特に第5表の「配偶者の税額軽減額の計算書」は配偶者の納税額を0円にできる制度であるため、適用できる場合は必ず記入してほしい。
第4表 | 相続税額の加算金額の計算書 |
第5表 | 配偶者の税額軽減額の計算書 |
第6表 | 未成年者控除額・障害者控除額の計算書 |
第7表 | 相次相続控除額の計算書 |
第8表 | 外国税額控除額・農地等納税猶予税額の計算書 |
以上で申告書の作成が完了となり納税額が確定する。
自分で申告する際の注意点
これまで自身で相続税を申告する方法について解説したが、ここでは申告時の注意点を2つ紹介する。
相続財産が抜けていないか注意する
自身で相続税を申告する場合は、抜けている財産が無いか注意しなければいけない。一つでも財産が抜けていると、原則修正申告しなければいけない。また後から遺産が見つかった場合でも同様に遺産分割協議を行い、申告する必要がある。もう一度同じことを行うと時間だけでなく、労力も費やしてしまい、「申告しなくても良いのでは」と考える人も多い。
しかし相続財産があるのにもかかわらず申告しなかった場合は「過少申告加算税」などのペナルティも課せられる。また最悪脱税の扱いとなり刑事罰が課せられる可能性もあるだろう。そのため相続税の申告をする前に財産調査は非常に重要だ。相続人は被相続人の遺産を徹底的に調べ、一つも漏れがないか注意してほしい。
間違えて納税すると罰則が課せられることもある
相続税を自身で計算をしたものの間違えて納税するとペナルティが課せられる。期限内であれば修正申告が可能だが、10か月を過ぎると以下の過少申告加算税を支払わなければいけない。過少申告加算税とは相続申告したものの、納税額を過少に申告してしまった場合に課せられる罰則。過少分に対して5%〜15%の税率をかけた金額を支払わなければいけない。
またその他相続期限を過ぎてしまった場合の延滞税や、申告していなかった場合に課せられる無申告加算税などの対象となる可能性もある。そのため相続税の計算ができた段階で税理士へ確認してもらった方が良いだろう。ペナルティについて詳しく知りたい方は「期限がある7つの相続手続きとは?相続税の申告期限が過ぎた際のペナルティを解説」を確認してほしい。
まとめ
今回、自身で相続税の申告を行う流れと申告書の作成方法について解説した。相続税の申告は相続開始から10か月の期限と定められているものの、財産調査や相続人の確定などさまざまな手続きがある。あらかじめ手続きの流れを理解していないと途中で躓くことになり、期限までに間に合わないということにもつながりかねない。
そのため自身で相続申告する方は申告までの手順を理解した上で取り組んでほしい。また申告する相続税を間違えると大きなペナルティも発生する。正しい納税額を算出するには税理士へ相談しながら申告書を作成することをおすすめする。